SNSやジムで人気の種目「ヒップスラスト」について、「効果がない」「お尻に効いている感じがしない」という声を見かけることがあります。実際にやってみたものの、期待したほどお尻への刺激を感じられず、このまま続けるべきか迷っている方もいるのではないでしょうか。
結論からお伝えすると、ヒップスラストが完全に無意味な種目というわけではありません。ただし、瞬間的な筋肉の働き(筋活動)が高いことと、実際に筋肉が大きくなる効果が高いことは、必ずしもイコールではないことが、複数の研究から分かっています。
この記事では、ヒップスラストの効果について、論文で示されているデータと、実際にトレーニングを続けてきた筆者自身の体感の両方から、率直に解説していきます。
この記事でわかること
- ヒップスラストで「お尻に効かない」と感じる主な原因
- ヒップスラストとスクワット・デッドリフトの効果の違い
- ヒップスラストの筋活動(EMG)に関する研究データ
- 「意味ない」と言われる背景にある、筋肉の働きと実際の筋肥大効果のズレ
先に結論
- ヒップスラストは、大臀筋の瞬間的な筋活動(EMG)ではスクワットやデッドリフトより高い傾向があります。
- ただし、実際の筋肥大効果は同程度で、研究によってはスクワットが上回る結果もあります。
ヒップスラストは効果ないと言われる理由
ヒップスラストについて「効果がない」と感じる背景には、いくつか共通する理由があります。ここでは、フォームの問題から、スクワット・デッドリフトとの役割の違い、そして論文が示す科学的なデータまで、順番に見ていきます。
- ヒップスラストで「お尻に効かない」と感じる原因
- フォームのズレが効果を半減させる
- スクワット・デッドリフトとの違いとは
- 科学的に見た大臀筋への効果
- 「意味ない」と言われる本当の理由
ヒップスラストで「お尻に効かない」と感じる原因
ヒップスラストを行った際に、お尻ではなく太ももの前や腰に効いている気がする、という声は少なくありません。
多くの場合、原因は種目そのものではなく、フォームや負荷設定にあります。
ヒップスラストは股関節を伸ばす動きの中で大臀筋を働かせる種目ですが、動作の途中で腰を反りすぎたり、逆に可動域を十分に使えていなかったりすると、大臀筋よりも腰や太もも裏(ハムストリングス)に負荷が逃げてしまいます。
例えば、肩甲骨の位置がベンチからずれていたり、顎が上がって首が反った状態で行っていたりすると、力の伝わる方向が変わり、お尻への刺激がうまく入らなくなります。

お尻に効きにくくなる4つの原因
- トップで腰を反りすぎている
- 股関節の可動域を十分に使えていない
- 肩甲骨を置く位置がベンチからずれている
- 顎が上がり、首まで反った状態になっている
フォームのズレが効果を半減させる
お尻への刺激を最大化するには、いくつかの基本的なチェックポイントがあります。
まず、動作の頂点(トップポジション)で骨盤を軽く後傾させ、お尻をしっかり締める意識を持つことです。
腰を反ってしまうと、負荷が腰椎に逃げてしまい、腰痛のリスクも高まります。
また、足の位置も重要です。かかとに体重が乗るように足を置き、膝が内側や外側に流れないようにすることで、大臀筋への負荷を保ちやすくなります。
いくら重量を扱えても、フォームが崩れた状態では、狙った筋肉に効かせることはできません。
高重量を扱うことよりも、正しい軌道と、お尻が働いている感覚(マインドマッスルコネクション)を優先することが、結果的に効果を高める近道になります。

フォームを整えるチェックポイント
- トップで骨盤を軽く後傾させる
- お尻を上げるために腰を反らない
- かかとで床を押す重心を保つ
- 膝が内側・外側へ流れないようにする
まずは重量よりも、狙った軌道を保てる負荷を優先しましょう。
スクワット・デッドリフトとの違いとは
ヒップスラスト、スクワット、デッドリフトは、同じ下半身の種目でも得意とする筋肉が異なります。
システマティックレビューによると、股関節を伸ばす筋肉(大臀筋など)はヒップスラストで優位な活動を示す一方、デッドリフトは太もも裏の筋肉(大腿二頭筋)の動員で優位になる傾向があります。
実際の研究データを見ると、1RM(1回だけ挙げられる最大重量)の負荷で行った比較では、ヒップスラストがヘックスバーデッドリフトより大臀筋の活動が全体で16%、上部では26%高かったという報告があります。一方でデッドリフトは、太もも裏の筋肉の活動で28%上回っていました。
70%1RMという、やや軽めの負荷での比較でも、ヒップスラストがデッドリフトより平均46.4%高い大臀筋の活動を示した一方、デッドリフトは太もも裏の筋肉の活動で78%上回るという結果が出ています。

筋活動データを縦型カードで比較
対ヘックスバーデッドリフト(1RM)
対デッドリフト(70%1RM)
出典:Andersen & Fimland, 2017/McCauley & Arreglado, 2022
つまり、ヒップスラストは「お尻を集中的に鍛えたいとき」、デッドリフトは「もも裏も含めて下半身全体を鍛えたいとき」に向いている、という役割の違いがあるということです。
以前の記事では、スクワットを毎日30回行うことの効果についても検証していますが、スクワットは大臀筋だけでなく、太もも前側の筋肉(大腿四頭筋)を強く動員する種目です。次の項目では、このスクワットとの違いを、より詳しい研究データとともに見ていきます。
科学的に見た大臀筋への効果
実は、ヒップスラストの大臀筋への効果を測定した研究では、一貫してスクワットより高い筋活動が確認されています。

ある研究では、10RM(10回挙げられる重量)の負荷で行った際、ヒップスラストの上部大臀筋の平均活動が69.5%(%MVIC、最大随意収縮に対する割合)だったのに対し、バックスクワットでは29.4%にとどまりました。
訓練された男性アスリートを対象に、3RMというより高い重量で比較した研究でも、ヒップスラストのピーク筋活動がバックスクワット、スプリットスクワットの両方より有意に高いことが分かっています。
1RMの負荷で比較した別の研究でも、ヒップスラストがバックスクワットより大きな効果量(統計的にはっきりとした差)で上回ったと報告されています。

システマティックレビューでも、ヒップスラストは動作の全可動域を通じて大臀筋の活動に優れる一方、スクワットは太もも前側の筋肉の動員に優れるという役割の違いが確認されています。
ここまでのデータだけを見ると、ヒップスラストはお尻に効く種目だと言えそうです。
「意味ない」と言われる本当の理由
ところが、実際に筋肉が大きくなるかどうか(筋肥大)という観点で見ると、話はそう単純ではありません。
この記事の核心
筋活動(EMG)の高さ=筋肥大効果の高さ、ではありません。

ある研究では、筋トレ未経験者を対象に、セット数やボリュームを揃えたヒップスラストとバックスクワットのトレーニングを9週間実施しました。その結果、大臀筋の肥大量は、どちらの種目でもほぼ同程度だったのです。
初回トレーニング時の筋電図(sEMG)の振幅は、確かにヒップスラストの方が全ての測定部位で高い数値を示していました。ただし、この差は最終的な筋肥大の結果を一貫して予測しませんでした。
さらに、訓練経験のある女性を対象にした別の12週間の研究では、むしろバックスクワットの方がヒップスラストより大臀筋の肥大が大きいという結果(9.4%対3.7%)が出ています。この差は、瞬間的な筋活動の高さではなく、種目ごとの筋力の伸びやすさ(種目特異的な適応)を反映している可能性がある、と指摘されています。
つまり、ヒップスラストの筋活動(EMG)が高いことと、ヒップスラストで筋肉が大きくなりやすいことは、必ずしも同じ意味ではないということです。この事実こそが、「ヒップスラストは効果ない」と言われる背景にある、本当の理由だと考えられます。
とはいえ、この結果は、ヒップスラストにまったく意味がないことを示しているわけでもありません。次の章では、この研究結果を踏まえたうえで、どう活用すればよいのかを見ていきます。
ヒップスラストの効果を正しく引き出す方法
ここまで見てきた研究データを踏まえると、ヒップスラストは正しく行い、正しく位置づけることで意味のある種目になります。ここでは、具体的なやり方から、他の種目との組み合わせ方、そして筆者自身の実践例まで紹介していきます。
- 正しいヒップスラストのやり方
- 筋肥大には他種目との併用がカギ
- 女性・初心者におすすめな理由
- 自宅でできるヒップスラスト実践法
- 実体験から見えた本当の位置づけ
- ヒップスラスト効果ないの結論
正しいヒップスラストのやり方
基本的な手順は、次のとおりです。
まず、肩甲骨の下あたりをベンチの端に乗せ、膝を90度程度に曲げて足を床につけます。バーベルやプレートを使う場合は、腰の上に置き、必要であればパッドで痛みを和らげます。

準備ができたら、かかとで床を押し込むようにしながら、お尻を持ち上げていきます。トップの位置では、骨盤を軽く後傾させ、お尻をしっかり締めるように意識します。
その後、ゆっくりと元の位置まで下ろし、同じ動作を繰り返します。
回数の目安は、初心者であれば10回から15回程度を2、3セット、慣れてきたら重量を増やしながら8回から12回程度に調整するとよいでしょう。
呼吸は、持ち上げるときに息を吐き、下ろすときに吸うのが基本ですが、無理に止めすぎないことも大切です。
初心者が気をつけたいこと
- 慣れる前に重量を急に増やしすぎない
- 重量だけを追わず、股関節の可動域を意識する
- 動作中に呼吸を止めすぎない
筋肥大には他種目との併用がカギ
ヒップスラストを行う場合、単独で行うよりも、スクワットやデッドリフトなど他の下半身種目と組み合わせることで、より効率的に大臀筋を鍛えられます。

前半で紹介した研究が示すとおり、ヒップスラストとスクワットは、瞬間的な筋活動の高さに違いがあっても、実際の筋肥大効果はほぼ同等か、種目によって得意な範囲が異なるという結果が出ています。特定の1種目だけに絞るよりも、複数の種目を組み合わせることで、大臀筋のさまざまな部位や可動域に刺激を与えられます。
ただし、種目数を増やしすぎると、回復が追いつかなくなることもあります。トレーニングを継続的に行ううえでは、休息と回復の設計も欠かせません。以前の記事では、筋トレの休息日について、超回復の考え方をもとに詳しく解説しています。
女性・初心者におすすめな理由
高重量を扱いにくい方や、筋肥大よりも姿勢改善・股関節の可動域向上を目的とする場合、ヒップスラストは選択肢として有効です。

ヒップスラストはスクワットやデッドリフトに比べ、腰への負荷が少なく、フォームを崩さずに扱いやすいという特徴があります。特に高重量のフリーウェイトに慣れていない初心者や、筋肉量を増やすことよりも下半身の引き締めを目的とする方にとっては、無理なく取り組みやすい種目だと言えます。
実際、女性の場合や、高重量を他の種目で狙いにくい場合には、ヒップスラストが有効な選択肢になるという声もあります。この点については、次の項目で筆者自身の体感も含めて詳しく紹介します。
ヒップスラストが向いている人
高重量を扱いにくい人、トレーニング初心者、姿勢改善や股関節の可動域向上を目的にする人にとって、ヒップスラストは有効な選択肢です。
自宅でできるヒップスラスト実践法
自宅にスミスマシンやバーベルがなくても、ヒップスラストは工夫次第で取り組める種目です。
筆者自身、自宅のスミスマシンで20kgのプレートを2枚つけてヒップスラストを行っています。
やっていて楽しい感覚があり、可動域があまり広くない体型でも高重量を扱いやすく、股関節もしっかり動かせるため、健康的な感覚が得られました。
自宅にスミスマシンがない場合は、ソファや低めの台をベンチ代わりに使う方法もあります。負荷は、ダンベルやプレートを腰の上に乗せる形で調整できます。
いきなり高重量から始めるのではなく、まずは自重や軽い負荷でフォームを固めてから、徐々に重量を増やしていくとよいでしょう。
実体験から見えた本当の位置づけ
ここまでの研究データと実際の体感を踏まえると、ヒップスラストは絶対に必要な種目というより、目的によって優先順位が変わる種目だと筆者は考えています。
お尻を鍛えるという目的だけであれば、スクワットやデッドリフトなど、より高重量を扱える種目で十分だと感じています。実際、フルスクワットを行った際のお尻の筋活動の大きさを考えると、スクワットの方が効率的だと感じる場面も多くあります。
一方で、女性の場合や、高重量を他の種目で狙いにくい場合、あるいは筋肥大そのものを目的としない場合には、ヒップスラストも十分にありな選択肢だと考えています。股関節をしっかり動かせることで、日々の活力を高める目的であれば、大いに取り入れる価値があります。
論文が示す、筋活動の高さと筋肥大効果は必ずしも一致しないという結果は、筆者自身の体感とも重なる部分が大きいと感じています。
論文と実体験からの結論
ヒップスラストは「効果がない種目」ではなく、目的によって優先順位が変わる種目です。筋肥大を最優先するのか、扱いやすさや股関節を動かす感覚を重視するのかで選びましょう。
ヒップスラスト効果ないの結論
- ヒップスラストが効果ないと感じる主な原因はフォームや負荷設定にあることが多い
- 骨盤の後傾と足の位置を意識することでお尻への刺激を高められる
- ヒップスラストは大臀筋、デッドリフトはハムストリングスの動員に優れる傾向がある
- 1RMや70%1RMの負荷ではヒップスラストがデッドリフトより高い大臀筋活動を示している
- 10RMや3RMの負荷でもヒップスラストはバックスクワットより高い大臀筋の筋活動を示す
- システマティックレビューでもヒップスラストは全可動域で大臀筋活動に優れるとされている
- 一方で筋トレ未経験者を対象にした研究ではヒップスラストとスクワットの筋肥大量はほぼ同程度だった
- 訓練経験のある女性を対象にした研究ではむしろバックスクワットの方が大臀筋の肥大が大きかった
- 筋活動の高さがそのまま筋肥大の効果の高さを意味するわけではない
- これが「ヒップスラストは効果ない」と言われる背景にある本当の理由と考えられる
- ヒップスラストを行う際は他の下半身種目と組み合わせることでより効率的に鍛えられる
- 高重量を扱いにくい人や初心者には腰への負担が少ないヒップスラストが選択肢になる
- 自宅ではスミスマシンやダンベルプレートを使って取り組むこともできる
- お尻を鍛える目的だけであればスクワットやデッドリフトで十分な場合が多い
- 目的に応じて種目の優先順位を柔軟に選ぶことが大切